【掲載記事】高降圧比のDCDCコンバータでマイルドハイブリッド電源システムの改善に貢献

掲載記事 Contributing Articles 省エネ要求とマイルドハイブリッド自動車の普及 | マイルドハイブリッドに求められる電源IC | 新技術 Nano Pulse Control®による電源の1chip化 | 産業機器分野への展開 | 総括 省エネ要求とマイルドハイブリッド自動車の普及 現在の社会トレンドとして、地球温暖化対策があらゆる製品において必要になっている。自動車分野でも例外ではなく、2020年に向けて各地域で規制目標を制定しており、その中でも最も厳しいのが欧州であり、95g/kmとなっている。この数値を実現するために各社が電動化車両の開発に取り組んでいる。 電動化車両には、電気のみで走行を行うpure-EV、燃料電池で走行を行うFuel Cell EV、回生エネルギーで充電しエンジン走行をサポートし電気のみでも走行できるストロングハイブリッド、更に家庭用コンセントで充電可能であるPlug-inハイブリッド、48Vのリチウムイオン電池で回生エネルギーを充電しエンジンのスタート・ストップや走行の補助に用いるマイルドハイブリッド、これらの計5種類の電動化車両がある。この中で48Vマイルドハイブリッド対応車は2024年で710万台の生産が見込まれている。 図1:電動化車両生産台 なぜ電動化を行うと燃費が向上するのかというと、従来のエンジン車の場合はガソリン(またはディーゼル)でエンジンを駆動し、エンジンにより鉛バッテリーを充電しエアコンやライトなどの電気系を駆動している。そのため、電気系を使用すればするほど燃費が悪化するのに対し、電動化車両ではブレーキ等で発生する回生エネルギーをリチウムイオンバッテリーに充電し、エアコンやライトなどの電気系に使用することで、エンジンの発電量を削減することができるため燃費が向上する。 電動化車両においてストロングハイブリッド車やプラグインハイブリッド車はCO2削減効果が大きいが、追加コストが大きく小型車には搭載が困難になる。また、従来の12VシステムではCO2削減効果にも限界があるため、低コストで高いCO2削減効果が見込める48Vのリチウムイオンバッテリーを使用したマイルドハイブリッドシステムが注目を集めている。 マイルドハイブリッドに求められる電源IC マイルドハイブリッド車と従来のシステムの大きな差は、バッテリーの電源電圧である。従来のシステムであれば12Vであった電源電圧が48Vと電圧が4倍になる。しかしながら、使用する電子コントロールユニットの電圧は変わらないので入出力電圧差が大きくなる。 図2:48Vシステムに必要な電源の違い そのため、より高い入力電圧から低い出力電圧を生成するためのきわめて降圧比の高いDCDCコンバータが求められる。また、車載の電源ICでは電波の干渉を防ぐために、AMラジオ帯域である0.5MHz~1.7MHzに影響を与えないように2MHzのスイッチング周波数が必要となる。従来では48Vから一旦12Vを生成し、そこから5Vや3.3Vを2Chipで電子コントロールユニットに必要な電圧を生成していた。しかし、この方法では周辺部品が2倍になり実装面積が大きくなる問題がある。周波数を落として1Chipで電圧を生成する方法もあるが、スイッチング周波数が低いためにコイルやキャパシタ等の周辺部品が大きくなること、また発生する高調波がAMラジオ周波数に影響を与える課題がある。 そのためマイルドハイブリッドには、48V入力から3.3Vが直接出力することができ、スイッチング周波数がAMラジオ帯域以上で動作可能なDCDCコンバータが求められている。 しかしながら、それを実現するためにはいくつかの解決しなければならない課題があった。 新技術 Nano Pulse Control®による電源の1chip化 より高い入力電圧からより低い出力電圧をより高い周波数で実現するための技術課題として、スイッチングのパルス幅を細くする必要がある。DCDCコンバータのスイッチングパルス幅というのは、入力電圧・出力電圧・スイッチング周波数の関数となっており、 より求められる。この式からもわかるとおり、入力電圧が高く・出力電圧が低く・周波数が高いほどスイッチングパルス幅は細くなっていく。そのため、マイルドハイブリッド用の電源にはスイッチングパルス幅を細くする技術が必要となる。 しかしながら、パルス幅を細くするためにはスイッチング時に発生するノイズの問題をクリアにしなければいけない。 入力電圧を高くすることで、IC内部に含まれる寄生のインダクタンスによりスイッチング時のノイズ成分が増加する。高周波化に関しても、素子の寄生容量やスイッチング頻度の増加によりノイズ成分が増加する。 図3:高電圧・高周波化に対するノイズ成分の増加 このスイッチングノイズをIC内部に取り込んでしまうと、動作が不安定になってしまう。従来の制御方法ではこのノイズをICに取り込まないようにマスク時間が必要になる。また、回路を動作させるためにはアナログ回路を動作させなければならないため、そこに遅延時間が発生してしまう。この二つの要因によりノイズ成分が増加するとパルス幅は太くなってしまう。 これらの問題を解決するために、ロームではノイズが発生する前の情報を検出し、その情報を元に制御を行う超高速パルス制御回路や高耐圧BiCDMOSプロセスなどを駆使した新技術「Nano Pulse Control®」を開発した。 この技術を搭載した機種の第一弾として、「BD9V100MUF-C」をリリースした。48V電源に要求される最大電圧である60V入力から、3.3V出力を行うために必要なパルス幅は、30nsとなるが、実際のICでは負荷変動や電源変動を考慮すると、さらに細いパルス幅が必要になる。今回の製品ではその30nsを大きく上回る9nsの高速制御が可能であり、その結果60V入力2.5V出力という業界最高降圧比24:1を実現することが可能となった。60V入力から2.5V出力に必要なパルス幅は20nsになる。 図4:60Vから2.5Vへ2.1MHzで直接降圧可能 また、高速制御を実現することにより、スイッチング周波数を2MHz以上に維持したまま、入力電圧16Vから60Vまでで安定して2.5Vの出力が可能になる。 図5:幅広い入力電圧に対して安定したスイッチング周波数 この製品を使用することにより、従来のICでは、48Vから12Vを作り、そして3.3Vを作るという今まで2Chip必要だったDCDCコンバータの構成が1Chipで直接48Vから3.3Vを作ることが可能となった。 今回の製品は車載製品となるため、車載製品に対する取り組みとして異常時でもICを破壊から防ぐ保護機能を搭載している。入力電圧が60Vと大きくなると、出力やスイッチング端子を短絡した際に大きなエネルギーが発生し、従来の大きな電流が流れてから異常を検出する短絡検出方法ではICが破壊してしまう。そのため、大きな電流が流れる前に事前に異常を検出してICを保護する新方式の保護検出技術を開発し、出力が異常状態になってもICを破壊から防止する。 また、ウェッタブルフランクパッケージと呼ばれる半田濡れと視認性の良いパッケージを採用することで、実装信頼性の向上もはかっている。 産業機器分野への展開 48Vリチウムイオンバッテリーは車載分野以外にも建設機器や基地局に代表される産業機器分野においても広く使用されている。これらに使用されているマイクロプロセッサーも多くは3.3Vや5Vのため本製品を展開することができる。従来にない高周波動作を実現したことで、周辺部品の小型化を行うことができるため、車載と同様の展開が可能である。 総括 自動車のCO2削減が大きく取り上げられ、燃費改善というのは自動車販売のスペックの一つとしても重要なものになっている。48Vリチウムイオンバッテリーを使用したマイルドハイブリッドはコストパフォーマンスの良いハイブリッドシステムとして、これからシェアを伸ばしていくと考えられる。本ICはこのマイルドハイブリッドに使用する電源として、小型化やシステムの簡略化に大きく期待ができる。特にマイルドハイブリッドの導入が進む欧州の車載市場においては今回の特性が大きなアドバンテージとなると考えられるため、積極的に拡販を進めていく。

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