特集:パワー半導体デバイス技術 最新FPGAが要求する電源IC

掲載記事 Contributing Articles 1.FPGAとは | 2.FPGAに求められる電源仕様 | 3.FPGAリファレンスで優れた電源特性を手に入れる | 4.総括 近年の電子機器(アプリケーション)の多様化と高機能化には驚かされるものがある。その背景には、各製品における開発リードタイムの短縮と半導体技術の大きな発展があると言える。 こうした中、FPGAと呼ばれるLSIが以前にもまして、電子機器の開発に大きく寄与して脚光を浴びており、市場規模を大きくしている。 1.FPGAとは FPGA(エフピージーエー)は、Field Programmable Gate Array の略語であり、現場(Field)で、書き換え可能(Programmable=プログラム可能)な、論理ゲート(Gate)が格子(Array)状に並んでいるセミカスタムLSIという意味で、一言で言うと「後からでも回路の書き換えが可能なロジック・デバイス」だ。 製品出荷後でも再設計が可能なため、製品のアップデートや新たなプロトコル規格への対応もスムーズに行うことができる。これは、製造すると中身が固定されてしまう ASIC (Application Specific Integrated Circuit:特定アプリケーション用にカスタムメイドで製造されるIC)や、ASSP (Application Specific Standard Product:特定アプリケーション向けに機能を特化した標準・市販IC)にはない、FPGAならではの特長である。 FPGAの再プログラム可能な柔軟性に加え、近年のテクノロジーの進化により、FPGAの高集積化、高性能化、低消費電力化、低コスト化が進み、FPGAがASICやASSPと同程度の機能を持つようになったため、さまざまな電子機器で使用されるようになってきた。 2.FPGAに求められる電源仕様 ロームは今年7月、最新のFPGAであるXilinx社製の28nmプロセスを使用した7シリーズに対応するスイッチング・レギュレータ・コントローラ「BD95601MUV(1ch)」、「BD95602MUV(2ch)」を開発、リリースした。またAVNET Internix社が持つFPGA用開発キット(Mini Module Plus)(写真1)に向けた電源モジュールボードも開発した。(写真2) 写真1:AVNET Internix社製 FPGA用開発キット(Mini Module Plus) 写真2:ROHM電源モジュールボード これらのリファレンスデザインとなっている両電源ICは、高機能でありながら汎用性も高く、FPGAのみならず広範囲なアプリケーションに利用可能なものになっている。 昨今のハイエンドFPGA(今回のAVNET Internix社の開発キットはXilinx Kintex-7用)は、プロセスの微細化とそれに伴う低電圧化、コア部とインターフェース部の電源分離やデジタル回路・アナログ回路の混載などのマルチ電源化により、高度な電源管理が必要となる。電圧精度はもちろん低リップルであること、そして投入順序管理や高い負荷過渡応答性能が要求される。図1はロームの電源モジュールの出力構成で、それを生成する各スイッチング・レギュレータ・コントローラと電圧/電流が示されている。 図1:電源モジュールの出力構成とFPGAの電源要求 このモジュールには、内部回路、I/O、RAM、トランシーバ用など合計8種類の電圧が必要だ。電圧精度は内部回路用のVCCINTを例にとると±3%である。 システム電圧などは通常±5%なので、割合だけで考えると±3%は少し厳し目と見ることができるが、実際の許容電圧で考えると; 3.3V±3% は 3.3V±99mV だが、VCCINT=1.0V±3% は 1.0V±30mV つまり、VCCINTの許容差はわずか±30mVで、電圧が低い場合は実際の許容電圧が何ボルトであるかが懸案になってくる。これはリップル電圧が伴う前提のスイッチング・レギュレータには非常に厳しい条件であり、負荷過渡に対する応答も高速でなければ、簡単に許容差を超えてしまう。電源にとって、低電圧高電流出力で高精度高安定の実現は大きな課題である。 また、電源精度だけではなく多数の各電源に対し、電源立ち上げシーケンス、立ち下げシーケンスが細かく定められており、これらを満足しなければFPGAが起動しないなどの不具合が生じる。 ―高速負荷過渡応答を実現するロームのスイッチング・レギュレータ・コントローラ― これらのFPGAを確実に起動、安定動作させるスイッチング・レギュレータ・コントローラ「BD95601MUV(1ch)」、「BD95602MUV(2ch)」の主な仕様は以下の通り。 【特長】 ・ ローム独自の高速負荷過渡応答を可能にするH3RegTM制御方式を採用 ・ 最大効率95%以上を実現 ・ 軽負荷時パルススキップ制御を行う、軽負荷モード、低リップル制御重視であるPWM連続制御モード、 軽負荷時音鳴り防止制御を行う静音軽負荷モードが選択可能 ・ 多様な電源シーケンスを実現するための可変ソフトスタート端子、パワーグッド出力端子を搭載 ・ 各種保護機能を搭載(OCP、SCP、UVLO、TSD) 【仕様概要】 表1参照。基本的には2製品共に高効率の同期整流型の降圧型コントローラで、重負荷時の効率はもちろん、軽負荷時の効率も高い。基準電圧は0.75V/0.7Vと低電圧に対応し±1%の精度は前述の±3%の精度に対し十分なマージンをかせぐことが可能である。さらにローム独自のH3RegTM制御モードにより高速負荷過渡応答を実現しており(図2)、FPGA用の電源として非常に理にかなった仕様になっている。 表1:BD95601MUV(1ch)、BD95602MUV(2ch)の仕様概要 図2:急激な負荷電流変動にも最小限の電圧ドロップで高速負荷過渡応答 【高速負荷過渡応答H3RegTM制御】 負荷過渡応答特性を高速化するために、固定オンタイム制御を使用するソリューションがあるが、H3RegTM制御は負荷急変時の過渡応答特性を更に高速化した、進化型(改良形)の固定オンタイム制御方式である(図3)。 図3:ローム独自の高速負荷過渡応答H3RegTM制御 ・ FBピンには、内部電圧制御コンパレータ入力の基準電圧(REF)と比較するために、分圧された出力電圧が帰還される ・ 通常動作では、H3RegTMコントローラはFBピンの電圧がREF電圧以下になったことを検出すると、以下の式で決まる時間(tON)の間、 ハイサイドMOSFETのゲート(HG)をオンにして、出力電圧を上昇させる ・ tON後にHGがオフになると、ローサイドMOSFETのゲート(LG)をオンにして、FBピン電圧が降下し始めREF電圧と等しくなるとLGをオフにする ・ この繰り返しによって出力を一定に維持する ・ 負荷急変時には出力が低下し、FBピン電圧が決められたtON時間を過ぎてもREF電圧以上に上昇しない場合、 tON時間を延ばしてより多くの電力を供給することで、出力電圧の復帰を早める。すなわち、負荷過渡応答特性が向上する ・ 出力電圧が復帰すると、通常動作に戻る 3.FPGAリファレンスで優れた電源特性を手に入れる 図4は今回のAVNET Internix Kintex7向けローム電源モジュールのVMGTAVtt出力の波形である。VMGTAVttはFPGAトランシーバ用アナログ電源の1.2Vで精度要求は±2.5%と一番厳しい。しかしながらBD95601MUVの1.2V出力は、リップルが5.6mVとわずか0.47%の誤差しかないことを示している。 図4:電圧リップル波形 もちろんすべてにおいて最適化が行われ調整された結果ではあるが、ICの素質が良くない場合、如何に調整してもこういった優れた特性は得られないことを強調しておく。しかしながら、スイッチング電源を設計するのは簡単とは言えない。部品定数の計算はもちろん、最適な特性を得るための部品ケミストリの検討、基板設計、そしてデバッグなくして本来の性能は得られない。 したがって、優れた電源を手に入れるには、電源モジュールを利用する、もしくはFPGAキットでの評価を終え、実機に移行する際にリファレンスデザインを利用するといった方法があるが、独自にオンボードの電源の設計をする場合も少なくない。 ロームは従来からアナログ設計技術に強みを持っており、このような優れた特性を持つモジュールを実現できる部品選びと基板設計のノウハウをもって、お客様のサポートを行う体制を用意している。 4.総括 FPGAが必要とする電源使用は前述の通りで、実際のコネクタで接続するFMC(FPGA Mezzanine Card)の場合は配線が長くなるようなこともあり、特性面ではより厳しい。 こういった条件のもとで、7シリーズというハイエンドFPGAの電源要求を満足するモジュールを供給できるのは、ロームが優れた電源用ICと電源設計のノウハウを持ちあわせているためだと胸を張って言うことができる。 また、お客様に日本メーカーのリファレンスデザインを選んでいただくと言う点で、品質・信頼性、供給体制、サポート、コミュニケーションといった面での安心感、そしてICだけでなくディスクリートや電気・電子部品もあわせて供給できるアドバンテージをアピールしたい。

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