掲載記事 Contributing Articles はじめに 2012年秋、ロームは燃料電池ベンチャーのアクアフェアリーと新しい水素燃料電池を発表した。本燃料電池は、水素化カルシウム(CaH2)の反応性を制御した固体水素源、樹脂成型のコンパクトな発電セル、オンデマンド出力が可能で簡単な燃料供給機構からなっており、数Wの小型なものから、200Wを超す携帯型の大出力発電機まで実現することができる。 スマホ充電用、200W出力発電機、地震計用400W型を発表 近年の電子技術の発達に伴い、コンパクトで省電力なCPU、メモリー、ディスプレイ、無線素子が実現され、スマートフォンやパッドなどにみられるように携帯機器の機能が向上し市場が拡大している。その一方、電源に関してはリチウムイオン2次電池がそのエネルギー供給を担っているが、交流100Vの商用電源へのアクセスに支障のある、アウトドアの活動や災害などの停電時の電源確保が困難になるという問題を抱えている。 燃料電池は、エネルギー効率が高いことから、既に家庭用の電源・熱源として使用されているが、エネルギー密度の高さを活用した電気自動車や携帯電源への適用は遅れている。 このような状況の中、電子部品・モジュールのロームと水素燃料電池技術を有するベンチャー企業のアクアフェアリーは、連携して①スマートフォン充電用燃料電池、②200Wの高出力発電機、③地震計用の400Whr燃料電池を開発し発表した。いずれの燃料電池も、軽量・コンパクトさを生かした携帯が可能なものである。 これらの燃料電池では、エネルギー源に水素化カルシウム(CaH2)を使用している。この材料は水を添加することによって、水素ガスを発生するものである(図1)。通常は、温度に関わらず極めて速い速度で水素ガスを発生するため、従来はその利用が困難なものだった。これに対しアクアフェアリーでは、水素化カルシウム粉末と樹脂を混合して固型化することにより、緩やかな水素発生を安定して行なうことを可能とした(写真)。このような水素源は、標準的な水素燃料電池で用いられているような高圧水素ガスを必要としないため重量の大きなボンベがなく、軽量な水素源を実現することが可能になり、高圧ガスの充填費用コスト削減することができる。さらに、発生した水素をすぐに発電セルで消費することから、過剰な水素ガスが蓄積することがないという利点がある。このように、水との反応性の高い水素化カルシウムだが、水分さえなければ分解・劣化反応をすることがない極めて安定な材料になっている。このためアルミラミネートで封止することにより、推定で20年以上の保管が可能であることも確認されている。また、本燃料電池では、発電時の反応生成物が水酸化カルシウム(消石灰)であり、他の乾電池や2次電池と異なり廃棄の際に環境負荷が小さいという特徴がある。 [図1]固体水素源からの水素発生反応 固体化水素源 今回の燃料電池の発電部は固体高分子形燃料電池(polymer electrolyte fuel cell, PEFC)で、燃料極(負極)、固体高分子膜(電解質)、空気極(正極)を貼り合わせて一体化した膜/電極接合体 (Membrane Electrode Assembly, MEA)を用いるものである。このタイプの燃料電池は、家庭用で固定して使用されている固体酸化物形燃料電池 (Solid Oxide Fuel Cell, SOFC)のような高温動作(~700℃)を必要としないことから、携帯用燃料電池に適している。またPEFCの中には、メタノールを燃料として使用する直接メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell、DMFC)があるが、発電セル単位面積当たりの出力が4分の1~5分の1程度と低く、燃料電池発電部を軽量・小型化することが困難だった。 さらに、DMFCでは、高濃度のメタノールでMEAが劣化したり、液体燃料のメタノールを供給するために、電動ポンプとその駆動のための電池の充電が必要となるなどの問題点もあった。 今回発表した燃料電池では、水素ガスを燃料として用いるため高出力動作が可能になっている(図2)。 [図2] 燃料電池の発電機構 さらに、発電時に消費された水素ガスの分だけ、CaH2燃料への水の供給を行い、ポンプを使用することなく水素消費量と同等の水素発生を行う新開発のオンデマンド方式を採用しており、ポケットサイズの小型の燃料電池でもスマートフォンの高速充電が可能となる2.5Wの出力を実現するとともに、負荷側の電力消費量に合わせて自動的に発電量を調整することが可能としている。 このような、水素燃料電池の小型化の特徴を生かすために、今回発表した燃料電池では発電セル構造の設計についても軽量・コンパクト化も図られている。従来の発電セルにおいては、セラミックなどの硬質のフレームとボルトナットを用いて、燃料極・固体高分子膜・空気極とシール材を挟み込む方法でMEAが組み立てられていた。しかしながら、この方法ではフレームの体積やボルトナットを取り付けるスペースが大きく部材の軽量化にも限界があった。今回の発電セルは、燃料極・固体高分子膜・空気極からなるMEAを樹脂モールド法で一体化することで、軽量・コンパクト化が図られている(図3)。 [図3] 樹脂成型発電セル 発電セルをコンパクトに形成するが可能になったことから、発電セルの集合体もコンパクトにすることが可能になり、200Wという高出力でも持ち運びができる発電機を実現したものである。 なお、今回発表したデバイスは、下記3機種4タイプで、さらにITツール用の燃料電池も企画している(図4)。 ① わずか100cc程度の体積で、標準的なスマートフォン(5Whr)であれば2~3時間で一回フル充電することのできる発電セル・電圧変換回路・燃料カートリッジ・USBコネクタを形成したカードケース型の燃料電池。 ② ①と同様の機能で標準的なスマートフォン(5Whr)を直接挿入するカバー型の燃料電池。 ③ 発電セルを集合化した250Wのセルモジュール、DC/DCコンバータ、制御用マイコンからなり、出力が負荷変動に追従する出力200W、エネルギー容量200Whrのオンデマンド発電機 ④ 発電量が400Whr ~ 800Whrと大きい地震計用の燃料電池。 また、④については特定ユーザー(近計システム)にサンプル販売を開始している。 このような燃料電池の用途としては、 ① スマートフォン・携帯電話・パッド・ノートPC等のITモバイル電子機器 ② 防災用外部充電器・防災用ポータブル発電機・災害医療・救助信号の災害対策機器 ③ サーバー用バックアップ電源・スマートグリッド補助電源などの停電対策 ④ キャンプ用品・トレッキング用品・ラジコンなどのアウトドア用品 ⑤ 地震計等の遠隔地センシング用電源 ⑥ 交通インフラ等のメンテナンス電源や資源探索機器用の電源 などの分野があり、それぞれのニーズに対応したカスタマイズも課題。 これらの商品をWorldWideに実現するために、CEマーキング(欧州)、IEC(主に航空機持ち込み)、RoHSなどの一連の規格などへの対応や、サプライチェーンについても検討中であり、できるだけ早期に事業化を図る予定である。 また、現時点では使い捨ての燃料であるが、将来的には燃料のリサイクル化(再活性化)が可能な水素エネルギー社会を実現するために、京都大学と連携して次世代燃料の検討を進めているところである。 固体水素源を用いた燃料電池は、燃料と発電部がコンパクト、燃料の保管期限が長い、高出力、充電が不要、廃棄が容易である等の特徴があり、従来の商用電源やリチウムイオン電池・乾電池を補完・置き換えるだけでなく、新たな電源応用機会の創出も期待されている。 [図4] 燃料電池開発ラインアップ 関連情報 ニュース: 高効率と安全性を同時に実現した軽量な固体型水素燃料電池を開発! スマートフォンからポータブル発電機向けまでをラインアップ
この記事の重要度
星をクリックして評価してください。
Average rating / 5. Vote count: