特集:電源用半導体デバイス技術 DC-DCコンバータ用MOSFETの新技術

掲載記事 Contributing Articles はじめに | 同期整流型DC-DCコンバータ用MOSFET”RMWシリーズ” | パッケージによるノイズ対策 | ボディーダイオード特性によるノイズ対策 | DC-DCコンバータ用小型MOSFET”RQ3Eシリーズ” | 今後の展開 はじめに 近年、ノート型パソコン、電子書籍など携帯機器の急速な普及を背景に電子部品に対して”高効率”、”省エネルギー”などエコに対する要求が一層高まっている。ロームは携帯機器における電源回路向けに低電圧駆動・低オン抵抗を特徴とした “ECOMOSTM “を展開してきたが、より大電流・ハイパワーが要求されるDC-DC電源向けに対しても新商品を投入し”ECOMOSTM ”のラインアップを拡充させた。 今回は、新たにラインアップに加わった商品群の特徴を説明し、ロームの更なる高性能化・高機能化に向けた取り組みを紹介する。 同期整流型DC-DCコンバータ用MOSFET”RMWシリーズ” 高機能・長時間駆動が要求されるノート型パソコンのCPUはプロセス進化に伴い動作電圧の低下が進んでいる。そこで、DC-DCコンバータから供給される電源においては、低電圧出力(Vout=0.8V)、大電流出力(Iout>100A)、高速スイッチングなどの技術的課題が多く、従来のPower MOSFETでは十分な電源効率を得ることが難しくなってきている。効率を低下させる主な電力ロスの要因としてHigh Side MOSFETのスイッチング損失とLow Side MOSFETの導通損失であることが知られており、High Side MOSFETには高速スイッチングMOSFET 、Low Side MOSFETには低オン抵抗MOSFETを使用するのが一般的である。 しかしながら、入力電圧と出力電圧のDC-DC変換比率(Duty)や出力電流値によってそれぞれのMOSFETにおける損失の比率は変化するため、特にCPUなど定常動作状態と高負荷動作状態の差が大きいような用途においてはHigh Side MOSFETの導通損失やLow Side MOSFETのスイッチング損失に関しても十分注意する必要がある。導通損失を決定するMOSFETのオン抵抗はChip内に集積されたMOSFETの数量が増えるにしたがって低下するが、一方、MOSFETの寄生容量は集積数量に比例して増加しスイッチング損失を増加させる。例えばLow Side MOSFETにおいて導通ロスを抑えるために低オン抵抗の商品を使用した場合にはスイッチング損失が増加することを考慮しなくてはならない。 ロームはこのトレードオフの関係に対して、低オン抵抗かつ低容量を実現する独自プロセスを開発することにより、様々な動作状態において高効率を実現した”RMWシリーズ”を展開している。(表1 LineUP) 表1 RMWシリーズMOSFETのラインアップ Package PD(W) Polarity Part No. VDSS(V) VGSS(V) ID(A) RDS(ON) Typ.(mΩ) Qg(nC) (VGS=4.5V) Qgd(nC) VGS=10V VGS=4.5V PSOP8 3.0 Nch RMW280N03 30 20 28 2.0 2.7 27.0 11.0 RMW200N03 30 20 20 3.0 4.0 14.4 5.5 RMW180N03 30 20 18 4.0 5.5 12.2 4.7 RMW150N03 30 20 15 6.5 9.0 8.0 3.0 RMW130N03 30 20 13 9.0 12.6 6.2 2.6 “RMWシリーズ”を使用することにより低出力域で高いスイッチング損失と高出力域で高い導通損失を同時に低減し、全出力範囲にて従来品以上の電源効率を実現している。(図1電源効率) この”RMWシリーズ”は、低オン抵抗を実現するためにトレンチ・ゲート構造を採用しているが、先述のMOSFETを並列接続した場合に生じる寄生容量増加を最小限に食い止めるため、トレンチ・ゲートの集積度を上げるのではなく、オン抵抗の主要因であるチャネルと呼ばれる反転部の抵抗を低減することに特化した独自構造を開発した。その結果オン抵抗を低減しながら、寄生容量も低減するというDC-DCコンバータ用途に最適なMOSFETを実現した。 例えば、Low Side MOSFETとして最適なRMW280N03であればRds(on)=2.0mΩ(Vgs=10V)、Rds(on)=2.7mΩ(Vgs=4.5V)でありながらゲート総電荷量Qg=27nC(Vgs=4.5V)、ゲート・ドレイン間電荷量Qgd=11nCまで低減することが出来ている。 [図1]電源効率 また、High Side MOSFETとして最適なRMW150N03はRds(on)=6.5mΩ(Vgs=10V)、Rds(on)=9.0mΩ(Vgs=4.5V)、ゲート総電荷量Qg=8.0nC(Vgs=4.5V)、ゲート・ドレイン間電荷量Qgd=3.0nCであり、いずれもDC-DCコンバータでの損失低減に特化した仕様となっている。 さらに”RMWシリーズ”はローム独自のワイヤレス技術を採用したPSOP8パッケージにより、低オン抵抗、大電流を実現するのみでなく、高放熱性も同時に実現している。(図2内部構造図) 通常の低オン抵抗、大電流を実現するPower MOSFETではAuやCuのWireではなくAl-WireやAl-Ribbonが使用されている。その場合Wire抵抗の低減により低オン抵抗、大電流化は可能であるが、放熱に関しては不十分である。なぜならChipにおいて発生した熱の大部分は裏面のドレイン電極から実装基板に放熱されるが、Chip表面からの放熱はあまり期待できないためである。 それに対してロームのPSOP8はChip裏面に加えてChip表面にもCuフレームを配置し直接Chipと接続していることによりソース端子を経由した放熱も可能となる。その結果、大電力動作時における発熱を効率よく基板に放熱することが出来るため、素子性能に加えてパッケージ性能も大電力のDC-DCコンバータをターゲットとした仕様に最適化されている。 [図2]RMWシリーズ内部構造図 パッケージによるノイズ対策 DC-DCコンバータ回路の小型化要求からPWMの動作周波数が数百kHzから数MHzに上昇する傾向がある。高周波化により周辺部品の小型化、省部品化が可能となり省スペース設計が実現できる。これはMOSFETのスイッチング性能向上により高周波動作時においてもスイッチング損失が低減できるようになった事が要因の一つであるが、その反面MOSFETのターンオフ時に発生するリンギングが大きな問題となっている(図3リンギング)。 リンギング電圧はインダクタや基板の寄生容量に依存するため電源回路全体のパターンを最適化する必要があるが、MOSFETに内在する寄生インダクタも大きな要因となっている。発生するリンギング電圧はL×di/dtにて生じるため、寄生インダクタLを低減することが重要であるが、通常のMOSFETはソース電極とソース端子をWireにより接続しているため、そのWireに電流が流れることによるソース・ドレイン間に発生する寄生インダクタが数nH程度内在している。この問題に対してロームのPSOP8によるソースフレームをChipに接続する構造はWireを使用しないことから寄生インダクタを1nH以下に抑えることが出来ており、高周波動作時における電源効率向上はもちろんのこと、問題であるリンギング電圧に関しても低減できる商品となっている。 [図3]MOSFETにおけるリンギングノイズ ボディーダイオード特性によるノイズ対策 DC-DCコンバータにおけるリンギングノイズ発生の要因は回路全体の寄生インダクタ成分だけではない。発生源の1つとしてLow Side MOSFETのボディーダイオード(寄生ダイオード)特性も影響する。 High Side MOSFETがオンし電流が流れ始めるとLow Side MOSFETのボディーダイオードを流れていた電流が減少し、スイッチノード部の電圧(Vsw)が上昇する。その間にボディーダイオードのリカバリ特性により発生するリカバリ電流(Irr)によってリンギングノイズが発生する。発生するリンギング電圧はIrrが大きいほど大きく、また逆回復時のdv/dtが急峻であるほど大きくなる。特に高速スイッチングMOSFETを用いた高周波動作のDC-DCコンバータにおいて使用するMOSFETに関してはボディーダイオード特性についても最適化しておくことが必要となる。 ロームは先述の独自のトレンチ・ゲート構造においてボディーダイオードに隣接したトレンチ・フィールドプレートを配置することによって、ボディーダイオード特性も最適化している。通常のトレンチ構造と比較した場合、低Irr特性に加えてソフトリカバリーを実現しており(図4)リンギング電圧を軽減することを可能とした。 [図4] リカバリ電流特性 DC-DCコンバータ用小型MOSFET”RQ3Eシリーズ” DC-DCコンバータにおいては携帯機器の電源回路に使用できるスペースが限られているためMOSFETの小型化要求も強い。そこでロームはPSOP8(5.0*6.0mm2)パッケージの”RMWシリーズ”に加えてHSMT8(3.3*3.3mm2)パッケージの”RQ3Eシリーズ”を展開している(表2)。この”RQ3Eシリーズ”にもDC-DCコンバータ用に最適化されたプロセスを採用しており、電源効率を最適化すると共にパッケージ裏面電極からの放熱も実現できるため60%以上実装面積を削減した上に最大15Aまでの電流のDC-DC電源に用いることが出来る。 RQ3E150MNであれば Rds(on)=4.8mΩ(Vgs=10V)、Rds(on)=6.4mΩ(Vgs=4.5V)でありながらゲート総電荷量Qg=10nC(Vgs=4.5V)、ゲート・ドレイン間電荷量Qgd=3.3nCとDC-DCコンバータに最適な仕様となっている。 表2 RQ3EシリーズMOSFETのラインアップ Package PD(W) Polarity Part No. VDSS(V) VGSS(V) ID(A) RDS(ON) Typ.(mΩ) Qg(nC) (VGS=4.5V) Qgd(nC) VGS=10V VGS=4.5V HSMT8 2.0 Nch RQ3E150MN 30 20 15 4.8 6.4 10.0 3.3 RQ3E130MN 30 20 13 5.8 8.3 7.5 2.4 RQ3E100MN 30 20 10 8.8 12.0 5.0 1.6 今後の展開 これまで紹介してきたDC-DCコンバータ向けの”RMWシリーズ”と”RQ3Eシリーズ”に加えて、ロームは次世代プロセスとして0.18umプロセスルールを採用したDC-DCコンバータ向け商品の開発を進めている。更なる高周波動作化を見据え、高速スイッチング特性を実現するために寄生容量成分を低減する事を追求したプロセス設計となっている。 例えば、先ほど紹介したRMW280N03がRds(on)=2.7mΩ(Vgs=4.5V)、Qgd=11nCであるのに対して、同一のオン抵抗特性の場合ゲート・ドレイン間電荷量をQgd=5.0nCと50%以上低減することにメドを付けた。ロームは引き続き微細化に加えて、独自構造のプロセスを立ち上げDC-DCコンバータ回路での効率向上を目指していく。 また、電源効率やリンギングノイズ軽減にはMOSFET単体での改善では限界があり、特に、High Side MOSFETとLow Side MOSFET間の配線インダクタンスの軽減が課題である(図5)。 [図5] MOSFET等価回路 この問題に対してロームはHigh Side MOSFETのソース電極とLow Side MOSFETのドレイン電極を内部で一体化したDC-DC専用の小型パッケージを提案する(図6)。これらの取り組みにより”高電源効率”だけではなく”省スペース”、”低ノイズ”などの使用環境にも配慮した新商品を”ECOMOSTM ”のラインアップとして展開していく。 [図6] DC-DC電源用MOSFET専用パッケージ

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