2014年11月11日 <要旨> ローム株式会社(本社:京都市)と神戸大学大学院システム情報学研究科情報科学専攻の吉本雅彦教授は共同で、NEDOのプロジェクトである「ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発」において、次世代のウェアラブル生体センサに最適な世界最小となる超低消費電力技術の開発に成功しました。 本技術は不揮発性メモリを活用し、処理が無い時間は電源を積極的にオフして待機電力の発生を抑制します。必要に応じて電源を即座にオンすることで「ノーマリーオフ動作」を実現し、消費電力の極小化を達成しました。 本技術を用いたウェアラブル生体センサモジュールは、体表面のわずかな電位差(心電波形)から心拍数を取得します。(世界最小※6µA)加えて、加速度センサなど他のデジタル出力センサの情報も取得し、演算、記録することができます。また、通信機能も搭載しており、スマートフォンからウェアラブル生体センサを制御したり、データの入出力が可能です。これら動作を消費電流38µAと従来比1/5の低消費電力で実現します。 既にお客様のご要望に応じたウェアラブル生体センサモジュールの共同開発を始めています。また、消費電力を従来比の1/10とする目処も立っていることから、今後は、ロームの圧電MEMS(微小電気機械システム)デバイスと組み合わせた、電池不要のウェアラブル生体センサの開発を進めていきます。なお、本開発の成果はIEEEが認定する国際学会BioCAS(2014.10.22-24:スイス)で既に発表しており、ASSCC(2014.11.10-12:台湾)でも発表する予定です。 ※2014年11月11日現在 ローム調べ <背景> スマートフォンやウェアラブル機器など全ての電子機器において、電力使用量をできるだけ小さく抑えて、長時間動作させることは追求すべき永遠の課題です。特にウェアラブル機器はユーザーが装着していることを忘れるほど、バッテリーを小さくし、かつ長時間動作させる必要があります。 この課題に対しNEDOは、電源が遮断されてもデータを失わない不揮発性デバイスを使用することで究極の省エネを目指す「ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発」プロジェクトを2011年に開始し、企業・大学がその支援を受け研究を行っています。 その中でロームと神戸大学の吉本研究室は、ロームで長年製品実績のある不揮発性メモリ(FeRAM)と不揮発性ロジックの技術を最大限に活用し、独自のノーマリーオフ化技術を確立しました。今回、この技術をロームの0.13μm CMOSプロセスを使ったウェアラブル生体センサ向けに展開しています。 <世界最小を達成できた理由> 本技術では、下記3点の省電力化を実現することにより、世界最小の消費電力を達成しました。 ① 心拍取得部の電力を従来比1/20に削減 消費電力が大きい心拍取得アナログ部に、新たに開発したノイズ耐性に優れた心拍波形取得アルゴリズムを適用し、さらに一部をノーマリーオフデジタル処理に置き換えることで、従来比1/20となる大幅な低消費電力化に成功しました。 ② メモリ部の平均電力を1/10以下に削減 FeRAMを応用した新構造の不揮発性RAMを開発・搭載することで、動作に必要なスタンバイ電流を大幅に削減することに成功しました。 ③ ロジック部の消費電力を半分以下に削減 ARM Cortex-M0を含むデジタル回路ブロックに不揮発性ロジックを適応することでノーマリーオフ化し、ロジック部の電力を大幅に削減することに成功しました。 <アプリケーション例> 世界最小となる消費電力技術は次のようなアプリケーションに最適です。 ウェアラブル生体センサ 橋梁など構造物の監視センサ 農業用センサ エナジーハーベスト電源対応LSI パラメータ調整などの不揮発性機能付きローパワーLSI <用語説明> ノーマリーオフ システム内の真に動作すべき構成要素以外の電源を積極的に遮断すること。電源遮断をしてもシステムの状態やデータを忘れない不揮発性メモリなどのデバイスが必要となる。 類似の技術に「間欠動作」があるが、動作状態を継続して保持する必要があるメインの構成要素の電源は落とせないという課題がある。 不揮発性デバイス 電源が遮断されても、データや状態が保持されるデバイス。不揮発性メモリの代表的なものとしてフラッシュメモリやFeRAM、EEPROMなどがある。対する揮発性メモリとしてDRAM、SRAMがある。 BioCAS(Biomedical Circuits and Systems Conference) IEEEに認定されている国際学会で、先進的な生物・医学分野における革新的デバイスの開発の発表、及び意見交換を行う。 今年で10周年になる。 ASSCC(Asian Solid-State Circuits Conference) IEEEに認定されている国際学会で、アジアで開催される。半導体分野で最新かつ高度な製品、回路技術の発表、及び意見交換を行う。
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