掲載記事 Contributing Articles はじめに | 920MHz帯特定小電力無線の特徴 | ロームの920MHz帯特定小電力無線モジュールBP3596(ROHM Sub-GHzシリーズ) | 今後の展望について はじめに ロームグループでは、無線LANをはじめ、BluetoothやZigBee、そして特定小電力無線、EnOceanなど、さまざまな無線通信技術を有している。(図1) [図1] ロームグループが有する無線通信技術 近年ではスマートフォン、タブレットPC、Wi-Fiルーターの普及と、それを利用したソリューションが急増しており、ロームグループの商品群の中では無線LANとBluetooth(Bluetooth Low Energy)が市場の盛り上がりとともに活況している。ロームグループでは、こうした市場のニーズに沿ってLSIおよびモジュールの開発に力を注いでいる。 また、今後の普及に対しさらに期待が高まっている分野がある。それが920MHz帯の特定小電力無線である。背景としては、あらゆる分野で省エネの意識が高まっており、各国で効率的なエネルギーの利用に向けた取り組みが拡大していることがあげられる。中でも住宅では、HEMS(Home Energy Management System)に注目が集まりつつある。機器同士をインターネットなどのネットワークに繋ぎ、家庭内で消費されている電力を「見える化」や、一括で管理・制御を行う事で省エネを実現するシステムなどである。 さらに省エネだけでなく、構築したネットワークとセンサを組み合わせることで、温度や湿度、照度などの生活環境情報を読み取り、火災報知器、防犯装置、モニタ端末、空調、照明といった家電および水道やガスメータなどと通信を行い、自動で調整を行うことで快適で安全な生活への提案も考えられている。 その中で、家庭内のネットワークを構築する場合、有線接続と無線接続が考えられるが、煩雑な配線工事、特に既存の住宅への設置や機器の追加などの配線コストも考えると無線によるネットワーク構築が容易で最適である。HEMSに用いられるセンサネットワーク(複数のセンサ付き無線端末によって環境や状況を知ることができるネットワーク)に使用される電波帯として920MHz帯が非常に注目されている。 920MHz帯は2012年7月に行われた電波法改定によって使用できるようになった電波帯で、既存の無線との電波干渉を起こしにくく、低消費電力でありながら長距離のデータ通信が可能な点が利点である。またHEMS以外にもBEMS(Building Energy Management System)やFEMS(Factory Energy Management System)といった言葉も最近耳にするが、ここでも同じく920MHz帯の採用が検討されている。 ロームではこのエネルギーマネジメントシステムの市場をターゲットにし、920MHz帯特定小電力無線モジュールの開発に早くから注力している。 920MHz帯特定小電力無線の特徴 [図2] HEMSにおける無線方式比較 図2はHEMSを想定したシステムにおける無線方式を比較し、920MHz帯特定小電力無線の利点を示したものである。920MHz帯はHEMSに最適な周波数帯であると言える。以下に特長を述べる。 (1)伝送距離 電波の周波数が高ければ高いほど伝搬中の減衰は大きくなる。すなわち、同じ出力パワーで発振した場合、周波数が低いほうが電波の到達距離が長くなる。つまり、920MHz帯特定小電力無線は、2.4GHzの無線LANに比べて約3倍ほどの伝送距離が見込める。 (2)回折性 電波は障害物を回り込んで伝播する性質(回折性)がある。また電波は周波数が高ければ高いほど直進性が高くなり、障害物によって遮断されるようになる。920MHz帯の電波は2.4GHz帯の電波に比べて回折性に優れている。そのため、1階から2階の窓を回り込んだり、階段やコーナー、TVの物陰といったところでも電波が届き易い。家1軒丸ごと隅々まで電波が届く可能性が十分にあるだろう。親機1台で家中をカバーできれば、中継器等を追加で設ける必要がなくなる。同時に親機の設置位置も煩雑なことを考える必要がなくなり、親機設置の容易性にも貢献できる。 (3)スループット 920MHz帯は、電波法により送信タイミング等の規定もあり、50kbpsまたは100kbpsで使うこととなる。セキュリティなども考えるとスループット(実効値)としては更に半分か1/3程度になることが予想されるので、実質、数十kbpsというレベルで通信することとなる。この数十kbpsというのは、複数の端末からセンシングデータや制御データなどをいっせいに集めたりすることを想定した場合、非常に最適なスループットと言える。 (4)消費電力 無線通信における基本的な概念として、スループットと消費電力はトレードオフの関係にある。スピードが速ければ速いほど消費電力は大きくなる。つまり上記で920MHz帯はHEMSには最適なスループットであることを述べたが、スループットが最適であるということは、必然的に消費電力も最適に抑えられるということを意味する。 (5)電波干渉 現在、2.4GHz帯はスマートフォン、タブレットPCの普及により大変混雑してきている。駅やオフィスといった端末が密集する場所では急に動作が遅くなるといった経験をした方は少なくないのではないだろうか。そういった電波干渉の解決策としても920MHz帯特定小電力無線は有効である。理由は次のとおり。 920MHz帯は2012年7月に解放されたばかりの帯域であるため、現時点では世の中に端末が少なく、それほど混雑していないので当然つながりやすい。しかし、それだけではない。2.4GHz帯の無線LAN 13ch に対し、920MHz帯では30~40chが準備されている。さらに920MHz帯では電波法で送信タイミングも定められており、そのchを占有することもない。つまり今後仮に920MHzの端末が無線LAN端末並みに増えても、無線LANほどの電波干渉は起きないということが言える。 ロームの920MHz帯特定小電力無線モジュールBP3596(ROHM Sub-GHzシリーズ) ロームでは BP3596 (図3)というモジュールを量産中である。これは2012年11月から既に量産を開始しており、「920MHzのアンテナ付き電波法認証取得済モジュール」という切口では業界最速で量産開始した商品となっている。電波法の法改正(2012年7月)後、すぐに市場に投入したものである。以下に特長を述べる。 [図3] BP3596外形寸法図 (1)アンテナ内蔵 チップアンテナを内蔵しており、高周波設計をすることなく使用できる。また、アンテナコネクタを準備しており、アンテナコネクタに外付けのアンテナを接続することで、通信品質を確保することができる。 (2)電波法認証取得済み すでに国内電波法認証を取得しているため、無線通信試験を行うことなくセットに組み込み、すぐに無線設備として使用できる。高周波回路の設計ノウハウや無線特性測定を行う装置がないお客様であっても簡単に使用できる。 (3)MACアドレス モジュール内のEEPROMにロームでMACアドレスを書き込んで出荷する仕様。またそのMACアドレス情報を持たせたQRコードも標印してある。 (4)無線設定値調整済み BP3596は出荷時に既に出力パワー調整が完了しており、その調整値を内蔵するEEPROMに保存している。そのため無線機の煩わしい調整を行わなくても使用することができる。 今後の展望について ロームでは、BP3596にさらにMCUを追加で内蔵したモジュールを開発中である。MCUにはロームで準備した無線通信に必要な上位層を格納した仕様にする予定だ。 [図4] MCU内蔵タイプ 上位層ソリューション 32bitのMCU内蔵タイプはHEMS向けで、エコネットライトを想定したソフトウェアスタックになっている。TTC(社団法人情報通信技術委員会:日本国内における情報通信ネットワークに関わる標準の策定、普及活動や調査研究活動を行う標準化機関)から推奨されているSub-GHzにおけるエコネットライトの下位層のA方式(Wi-SUNスタック)とB方式(Zigbeeスタック)に準拠した2種類のファームウェアを準備中である。 また、8bitのMCU内蔵タイプは、ローム独自のネットワーク上位層を格納。電池駆動のセットへの組込みを想定し低消費電力をコンセプトに開発している。 これらのモジュールは、いずれもHOSTとのインターフェースはUARTを採用し、APIとしてコマンドを準備している。そのコマンド経由でモジュールを制御していただくという使い方になる。これにより無線を扱った経験のないお客様でも容易に無線通信を実現可能となる。組み込み容易性のあるモジュールである。(図4) 今後もロームではお客様がより使いやすいモジュールを提供していく。ローム製のセンサと920MHz帯特定小電力無線モジュールを組み合わせることで、省エネだけでなくより便利で快適、安心で安全な生活を提供できるような製品を開発し、社会に貢献していく。
この記事の重要度
星をクリックして評価してください。
Average rating / 5. Vote count: