掲載記事 Contributing Articles 照明用白色LED | 小型化・薄型化への取り組み | 車載用途LED 1990年代に青色LED、白色LEDが実用化されて以降、LEDを用いてのフルカラー表示が可能になったことや、昨今の省エネルギーに対する関心の高まりによって、LEDの用途はスマートフォン、パソコン、TVのバックライト、照明、白モノ家電や信号機などの多岐にわたる分野に広がっている。ロームでは高演色、高信頼性を実現した照明用LEDやPICOLED®に代表される小型、薄型LED、車載向けに対応したカスタムカラーLEDなどの商品ラインナップを取りそろえており、中でも特に照明用向けLEDの開発に注力している。 照明用白色LED 照明用白色LEDは世界的な省エネ化や東日本大震災が発端となった節電の影響もあり、市場が急速に伸びている。ただし、従来の照明から完全にLEDに置き換えるには特性上解決しなければならない問題があり、その中でもロームは高演色性、高信頼性に注力し開発を行っている。 (1) 高演色性 演色性(Ra)は色再現性を表す指数のことで指数が高いほど色再現性が良いことを表す(太陽光:Ra=100)。照明用白色LEDには高発光効率かつ高演色性(Ra≧80)が求められているが、発光効率と演色性にはトレードフの関係がある(図1)。市場では高発光効率の要求が高いためRa≒70付近の高発光効率LEDが多く出まわっているのが実情である。 一般的な白色LEDのパッケージ構造は、青色LEDチップを基板へ実装後、蛍光体配合樹脂で封止する構造を採用している。そしてLED素子の発光(青色)と蛍光体からの発光(黄色、赤色、緑色など)を合わせることで白色光としている。 発光効率の観点から青色+黄色で白色化する場合が多く、この場合、特に赤色の色再現性が悪く照明用途としては不適合となる。対策として赤色成分を多くし赤色の色再現性を良くしようとすれば、発光効率の低下を招いてしまうという問題があった。 その解決策として蛍光体をパッケージ内に効率良く配置させ、高発光効率と高Raを両立する技術開発に成功し、Ra≧80と高発光効率を両立した「PSL01、PSL02シリーズ」の商品化を行った(図2)。「PSL01、PSL02シリーズ」ではRaでは加味されないR9(赤色)の値も高く、同じRaの他社品に対してもR9が高いため赤色再現性が高い(図3)。この技術確立により色度バラツキも低減することができ、細かな色度ランク対応が可能となった。 [図1] 演色性(Ra)と光束 [図2] 投入電力と光束(3000K、Ra≧85) (2) 高信頼性 最近になり市場で信頼性に関する問題が顕在化してきている。特にLEDパッケージでは反射率の高いAgメッキが一般的に採用されているが、Agの硫化(Agが硫黄と反応し黒変する現象)による光束劣化が特に屋外用途のLEDで問題となってきている。各社さまざまな対応策を講じているが、完全には解決に至っていない。 ロームではその問題を解決するためAgメッキを使用せずNi/Auメッキを採用した「PSL01シリーズ」を開発した(後述の車載用途LEDではNi/Pd/Auメッキを採用)。AgメッキからNi/Auメッキへ変更することでコストUP、反射率の低下による発光効率の低下が発生するが、PKG構造の改善によりそれらの問題を克服した。 「PSL01」はLEDで最も要求される高発光効率を保ちつつ高信頼性を実現した製品であり、硫化試験においても光束劣化の現象が見られない良好な結果が得られている。 [図3] 特殊演色評価数比較(Ra85比較) 小型化・薄型化への取り組み モバイル機器の小型・薄型化により部品の低背化や、部品サイズの小型化による実装ピッチの狭ピッチ化などの要望が年々高まっている。また、フルカラーの屋外表示機器にLEDが多数用いられ、表現力向上のためのフルカラーLEDの高密度実装化が進んでいる(図4)。 [図4] 高密度実装化による微細表現 ロームは1996年SMDタイプLEDの生産を開始して以降も年々小型・薄型化を進め、2007年に世界最小・最薄である1006(t=0.2mm)サイズの「PICOLED®シリーズ」の量産化に成功、現在は0603サイズの「PICOLED®-mini」の開発に成功した(図5)。この小型・薄型パッケージ開発成功のポイントは、総合電子部品メーカーであるロームの各半導体部品(IC、抵抗、ダイオードなど)にも共通のローム独自の3つの小型化技術を応用したことにある。 [図5] ロームの小型化技術 (1) デバイス技術 パッケージを小型・薄型化するためには、内部のLED素子の小型薄型化も同時に行う必要がある。これに対してはウエハー上への発光層の成膜からチップ化までを自社で開発したプロセス技術により、AlGaInP系の高光度LED素子のサイズを0.13mm角, 厚さ50μmまで小型化することに成功した。 (2) モールディング技術 製品の強度を確保するために、半導体素子に樹脂封止を実施する。樹脂封止にはトランスファーモールド法を用いるが、モールド金型のキャビティの薄型化(モールドキャビティ厚0.10mm)に伴って、樹脂の流動性を確保する必要があった。またLEDには光学特性を確保するため、他の部品と違い樹脂に部品強度を確保する為のフィラーを用いることが出来ない。これにより、通常は製品機械的強度が低下する。前記の課題に対しても、小型のディスクリート部品の生産ノウハウにより課題を克服した。 (3) アッセンブリ技術 t=0.10mm厚の封止樹脂の中で、LED素子にワイヤリングを行う必要があるが、自社開発のワイヤボンダーを用いることにより狭ピッチ、低ループ化に成功した。 これにより、世界最小1006サイズ、厚さ0.2mmの超小型LED「PICOLED®」は、設置スペースを選ばず、かつ高光度LED素子使用した製品のため、例えば携帯電話の外装内部からLEDを発光させることによる透過表示(イルミネーション用途など)が可能になった。 さらに、ドットマトリクスディスプレイに用いた場合、従来の1608サイズの製品では最小2mmピッチであったが、「PICOLED®」では最小1.5mmピッチの高密度実装が可能となり、さらに微細な表現が可能となった。 また、その他の特徴としてパッケージのサイズが非常に小型のため、7セグメント、ドットマトリクスなどのモジュールにおいてCOBの代用として使用することができ、COBに必要なダイボンディング、ワイヤーボンディング、樹脂ポッティングなどの工程を省略することが可能である。 ※COB…Chip On Board、半導体素子をパッケージに加工することなく直接基板に実装し、回路と接続する手法 車載用途LED 車載用途としてのLEDは、昨今のLED電球や照明用途への急速な普及より以前に浸透しており、インテリア(車内)向けとしては、カーオーディオやカーナビゲーション、エアコンパネルなどのキーバックライトではほとんどLED光源が採用されている。車内灯・警告灯は電球、メーターバックライトは冷陰極管からそれぞれ置き換えが進んでいる。 最近では、エクステリア(車外)向けもリアランプやターンシグナル、ポジショニングランプは従来の電球から置き換えが進んでおり、ヘッドランプまでもが従来のハロゲンランプやHID(High Intensity Discharge:高輝度放電)ランプから置き換えとして実用化されている。 さらに周囲への視認性の観点から昼間点灯(DRL:Daytime Running Lamps)としてもLEDの採用が目立ってきている。 このような様々な車載用途のLEDに対して、ロームの車載用LEDは次の2点に注力して技術開発を行っている。 (1) 色味や明るさのカスタム対応 インテリアにおいて、エアコンパネルなどのダッシュボード周りの光源は、カーメーカーによってそれぞれ固有の色を指定される場合が多い。ロームのAlGaInP素子タイプLED「SML-D,T,Mシリーズなど」では、自社で素子を製造するメリットを生かし、顧客の要求カラー、光度に全てカスタム対応することが可能であり、顧客より高く評価されている(図6)。 InGaN素子と蛍光体含有の樹脂で実現する白色やパステルカラーLED「SMLZ,M,Tシリーズなど」においてもカスタム対応を実施している。また、キーSWバックライトなど、特に使用数量の多い用途で、隣り合ったキーSWの微妙な色の違いを気にされる場合においても、AlGaInP素子では、エピタキシャル成長の段階で波長のばらつきを抑える技術開発を実施しているので、顧客の狭い範囲での要求スペックに応えることが可能となり、こちらも好評を得ている(図7)。 [図6] 様々な色を表現する蛍光体の技術 [図7] 波長のばらつきを抑える技術開発 (2) 硫化対策パッケージの開発・ラインアップの拡充 一方、テールランプなどのエクステリアでは、耐熱性や耐候性を特に強く要求されているが、従来LEDパッケージでは、フレーム材料であるAgメッキが硫化を起こし、光束が劣化することが問題視され始めている。 そこでロームでは、フレーム材料にNi/Pd/Auメッキを施すことによって硫化を抑え、硫化原因で発生していた光束劣化を抑制することに成功した。また、Ni/Pd/Auメッキによる光度低下に対しては、素子自体の出力アップによって従来のAgメッキ品と比べても遜色ない光束を実現した「SML-Yシリーズ」を開発した(図8)。今後は、この硫化対策Ni/Pd/Auメッキを用いたパッケージのラインアップ拡充を図り、顧客の様々な要求に応えていく予定である。 [図8] Ni/Pd/Auメッキによる硫化対策試験結果
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