発表日:2011-11-21 半導体メーカーのローム株式会社(本社:京都市)と大阪大学(本部:吹田市)の研究グループは、共鳴トンネルダイオードによる発振素子と、検出素子を用いることで、小型デバイスでの300GHz高速無線通信(1.5Gbps)に成功しました。 光と電波の中間領域にあたるテラヘルツ波(周波数100GHz~10THz)は、それを発生させる技術や検出する技術が非常に難しく、これまで未開拓電磁波領域と呼ばれていました。近年は、技術の進展により徐々に開発が進み、高速無線通信やセキュリティ用途など、さまざまな分野への応用が期待されています。 現在、周波数275GHzまでの帯域は電波として割り当てが決められており、ミリ波を使用した無線通信の帯域幅はわずか7GHzと狭く、単純な変調では数Gbps程度の伝送速度が限界でした。限られた帯域の中でデータ伝送速度を高めようとすると、より複雑な変調方式を使う必要があり、消費電力の増加にもつながっていました。 一方、テラヘルツ波を含む275GHz以上の領域では周波数割り当てが決められていないため、より広い帯域を確保することが可能で、消費電力を増やすことなく、単純な変調方式でデータ伝送を高速化することができます。ただ、現在テラヘルツ帯で使える発生装置や検出装置(例えば分光・分析装置で利用されている)は大型かつ高価であり、民生分野での実用化に向けて小型で簡便なテラヘルツ帯デバイスが求められていました。 今回は、半導体基板上に放射効率、指向性を改善したアンテナ構造を集積化することにより、素子の小型化(1.5mm×3.0mm)に成功。このたび用いた素子は、素子にかける電圧によって発振素子(周波数300GHz)として動作する領域と、検出素子として動作する領域があります。発振素子としては電圧をかけるだけで発振が得られ、検出素子としては従来のテラヘルツ帯検出器に比べて4倍の高い感度を実現しました。これに加え、共鳴トンネルダイオードに最適な変調・復調システムを独自に構築することによって、データ伝送の高速化(1.5Gbps)を実現し、非圧縮でのハイビジョン映像の無線伝送にも成功しました。こうした小型半導体素子を用いたテラヘルツ無線通信は世界初※です。 将来的には30Gbps程度の超高速伝送も可能です。さらに、1つのチップが発振素子と検出素子の両方の役割を果たすことが出来るため、素子間での双方向通信も可能となっています。 現在、フルハイビジョンの4倍に当たる「4K」の家庭向けテレビや映写機が相次いで開発されており、テレビ画像の高精細化が進んでいます。これにより、データ容量も膨大になり、超高速での無線通信技術が強く求められています。本技術は、こういった大容量の高速データ伝送を実現し、例えば、こうした大容量データをサーバから携帯端末などに伝送する場合、一般的な100Mbpsのイーサネットで10分かかっていたデータ容量のものでも、本技術(1.5Gbps)を用いれば約40秒で伝送でき、将来的にはわずか数秒に短縮することも可能となります。 また、テラヘルツ波は紙や衣服を透過し、金属のみを反射するという特性を持っており、郵便物の危険物検査や空港のセキュリティチェック、医薬品の品質検査など、幅広い分野への応用も期待されています。 ※11月21日現在 ローム・大阪大学 調べ 本技術は実用化への大きな課題であった小型化や消費電力の低減にも大きく貢献しており、ロームと大阪大学では、いち早い実用化に向け、今後もさらに共同研究を推し進めてまいります。 なお、今回の研究成果は、2011年11月24日(木)から大阪大学中之島センターで開催される「第1回 テラヘルツナノ科学国際シンポジウム(TeraNano 2011)」(http://www.ile.osaka-u.ac.jp/research/THP/TeraNano/THz2011JP.pdf)並びに12月5日(月)からオーストラリア・メルボルンにて開催される「The Asia-Pacific Microwave Conference (APMC 2011)」(http://www.apmc2011.com/)にて発表予定です。 素子の概略図 1.5Gbpsでのアイパターン 共鳴トンネルダイオード(RTD)とアンテナを集積した 小型・高効率のテラヘルツ帯素子 (ひとつの素子で送信・受信機能を持っている) ■用語説明 テラヘルツ波 電波と光の中間領域(100GHz~10THz)にある電磁波。光の直進性と電波の透過性をあわせもつ。発生、検出技術の開発が遅れていたため、”未踏電磁波領域”と呼ばれている。 ミリ波 波長1~10mm、周波数30~300GHzの電磁波。現在、国内では、60GHz帯を用いた無線通信の実用化が進んでいる。 共鳴トンネルダイオード(RTD: Resonant Tunneling Diode) 量子井戸の両側の障壁層が十分に薄い構造では、井戸中の電子はトンネルにより障壁の外側に抜けることが出来る。 一方の障壁から電子が入射した場合、もとの量子井戸に形成されていた量子準位に対応してもう一方の障壁を透過していく確率が、入射電子のエネルギーにより共鳴的に増大する。この効果が共鳴トンネル効果であり、これをダイオードとして利用したもの。 アイパターン 通信における信号波形の時間遷移を多数サンプリングし、重ね合わせて表示したもの。その表示が目(アイ)に見えることから、アイパターンと呼ばれる。通信が成功していると、今回のように目が開いたようなパターンが得られる。 本リリースに関するお問合せ先 ローム株式会社 メディア企画部 広報課 〒615-8585 京都市右京区西院溝崎町21 TEL:(075)311-2121 FAX:(075)311-1317 大阪大学大学院基礎工学研究科 永妻忠夫 〒560-8531 大阪府豊中市待兼山1-3 TEL/FAX:(06)6850-6335 その他に関するお問い合わせ先 大阪大学大学院基礎工学研究科庶務係 〒560-8531 大阪府豊中市待兼山1-3 TEL:(06)6850-6131 FAX:(06)6850-6145
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